グランドセイコー スプリングドライブ クロノグラフ SBGC001 は、セイコーが2007年に発売開始した「キャリバーNo.9R86」というムーブメントが搭載されており、簡単に言えば通常の3針スプリングドライブ(9R65)+GMT機能(9R66)+クロノグラフ(ストップウォッチ)機能の組み合わせになります。
9R86の特徴の一つがこの機能の多さ。世の中の機械式クロノグラフ腕時計を見回してみても、GMT機能が搭載されている例はほとんど無いし、それに加えパワーリザーブメータを加えた計8本の針を持つクロノグラフ腕時計というのは、世界的に見ても超高機能なクロノグラフ腕時計であると言えます。
赤い矢印の針がGMTの24時間針。もちろんGMT針と時針(短針)はそれぞれ別の時刻に設定することができます。リュウズ1段引きで、秒針を止めずに短針だけを動かすことができるのは、こちらで紹介したSBGE005の仕組みと同じです。
スプリングドライブにおいてパワーリザーブメータはそれほど必要ないかもしれません。クロノグラフにおいても、通常の3針スプリングドライブと同じ72時間というパワーリザーブなので、金曜日の夜に腕から外して月曜日の朝まで動き続けている、というサラリーマンのライフスタイルを想定したコンセプトはそのまま。月曜日の朝、パワーリザーブメータは約1/6まで減っていますが、私のようなデスクワーク中心であっても月曜日の夕方までには余裕で満タンになります。このように通常のサラリーマンであれば、パワーリザーブは全く気にする必要がないのがスプリングドライブです。
しかし、月曜日の日中、少しずつ上昇していくパワーリザーブメータは、たとえクオーツが搭載されていて完全な機械式腕時計でないスプリングドライブも、やっぱりゼンマイで動く機械式腕時計の一種なんだなぁと再認識させてくれる、スプリングドライブだからこそ無くてはならない機能なのかもしれません。
こちらでも紹介したように、スプリングドライブの最大の特徴とも言える秒針のスイープ運針ですが、クロノグラフでは残念ながらその特徴を押し出せていません。その理由はクロノグラフであるゆえのスモールセコンド(小さな秒針)なので、スイープしている様子が認識しづらいのです。もしかしたらクロノグラフの欠点とも言えるかもしれません。
しかし、その欠点はストップウォッチスタートボタンを押すことで解決します。青い長針のクロノグラフ針が、まさにスプリングドライブのスイープ運針で動き出します。普段、スモセコのせいでスイープ運針を楽しめない分、ストップウォッチをスタートさせた時はいつも新鮮な気持ちでスイープ運針を堪能することができます。
スプリングドライブ クロノグラフ ムーブメント 9R86 を構成する部品数はなんと416!そのうちのほんの一握りの部品を、シースルーバックから覗くことができます。こちらで紹介した、ゼンマイが解ける力で高速回転する歯車も見えますが、それよりも目立つのがクロノグラフ腕時計特有の、ストップウォッチを動作させるのに必要なコラムホイール。このギザギザの部品は、ストップウォッチのスタートボタンを押す毎に1クリックずつ回転する様子をみることができます。スプリングドライブ クロノグラフの仕組みについては、こちらのサイトが詳しいです。
[webChronos] 未来を創造するセイコーの技術遺産 Vol.1
http://www.webchronos.net/oldarchives/cat17/seiko/
こちらのサイトに書いてあるように、スプリングドライブ クロノグラフには多くのこだわりが盛り込まれています。ストップウォッチをスタートしたとき発生する歯車の噛み合いズレによる針飛びを防ぐための垂直クラッチは、東京オリンピックで採用されたストップウォッチに採用された機構を参考にしているとか。またプッシュボタンの「ガッチャ」という押し心地も、私が小学生の時、体育の時間に夢中になって触っていた、昔ながらの機械式ストップウォッチを思い出させます。スプリングドライブという先進技術を取り込みながら、ノスタルジックな気持ちにさせてくれる不思議な腕時計でもあります。
ちなみにストップウォッチを動作させてもパワーリザーブ72時間が減るわけではありませんし、年差なみの精度の良さも変わることがありません。ゼンマイで動くからこそ、これだけたくさんの針を同時に動かすことができ、スプリングドライブだからこそ、機械式としては世界一正確なストップウォッチを実現できているというわけです。
もう一点、スプリングドライブ クロノグラフで特徴的な大きなプッシュボタンには、ねじロック機構があります。恐らく操作ミスを防ぐためのものだと思いますが、気になるのはロックを外しているときの防水性について。通常はロックしていないと本来の防水性を確保できないのではないかと考えてしまいますが、ストップウォッチを操作するためにロックしたり解除したりというのはとても面倒です。このことについて、グランドセイコー専用問い合わせ窓口に電話で問い合わせてみました。
その結果、プッシュボタン、リュウズともに、ロックをしていなくても本来の防水性は確保できているという回答を得ました。ただし、水中や濡れた状態でのボタン、リュウズの操作は避けて欲しいとのこと。この回答を受け、わたしはプッシュボタンのロックは解除したままにしておくことにしています。(リュウズはほとんど操作しないのでロックしたままです)
さて、今回入手したグランドセイコー スプリングドライブ クロノグラフ SBGC001 ですが、今まで感じたことが無いくらいの腕時計所有に対する高い満足感と、冗談抜きで10年は使えるな、という確信を感じています。
2011年1月に自分にとって初めての腕時計(カシオEDIFICE 3万円)を購入してから、腕時計に興味を持ち始め関心が高まるごとに少しずつ高い腕時計を購入してきましたが、心の底から満足することはありませんでした。しかし、グランドセイコー スプリングドライブ SBGE005、そしてクロノグラフ SBGC001 を購入したことで、ようやく心の安らぎを得ることができました。これより上を見ようと思うとスイス製、ということになると思いますが、私は技術者としてグランドセイコーに日本のモノ造りの歴史と誇りを感じていたいのです。
しばらくは腕時計を買うことはないと思います。もし買うとしたら、TOTOビッグで6億円が当たった後に、クレドール スプリングドライブ ソヌリ(1500万円!)だと思います。笑
グランドセイコー スプリングドライブ クロノグラフ SBGC001 ムーブメント9R86について