携帯電話でメールやアプリを頻繁に使う方にとって、電池の問題というのは意外に深刻だと思います。ちょっと前までは夢物語だった、町中のカフェでコーヒーの飲みながら携帯電話でのんびりとメールやWebをする、というスマートなモバイル生活は現実となりましたが、もう一歩先の現実は、電池マークの減り具合にヒヤヒヤしながらそそくさとアプリを終了し、時間をもてあまし店舗に備え付けの無料の情報誌に目を通す、というスマートとはほど遠いモバイル事情だったりします。
少しでも「スマート」に近づく為に必要なグッズ、それが「電池式充電器」です。(実際、ケーブルをブラブラさせながらのモバイルはスマートとは言えませんけどね) 昔は1回使い捨てのタイプがメインでしたが、最近では電池が交換できるタイプから、充電器そのものに充電機能を内蔵した物までありとあらゆる機種が店頭に並ぶようになりました。量販店ではどれを選んで良いか迷ってしまうほどの品揃えで、このことからも充電器の需要というのは拡大していることがわかります。
かくいう私もこの充電器は手放せない生活となっています。特にjigブラウザを使うようになってからはちょっと電車で遠出しようものなら目的地に着く前に電池マークが一つ減ってしまうほど電池を消費します。jigブラウザの社長さんも言っているように、通話するのと同じくらいの電力消費量だそうです。
私が持っているのは、これ。
単3電池を2本使うタイプで、ケーブル式です。この手の充電器はケーブルがついていないタイプが一般的ですが、私が使っているP902iやprosolid2はコネクタが本体の左サイドに配置されており、充電器を直接差したままの操作はほぼ無理、しかも充電器の自重でコネクタに負担をかけてしまいかねません。
私はこの充電器をニッケル水素二次電池(Ni-HM)で使っています。本来はアルカリ乾電池やオキシライド(購入時はオキシライドが添付していました)を使うべきなんでしょうが、そんなところにかかるコストはバカバカしいので。
で、この充電器、ケーブルも巻き取り式だし使い勝手や持ち運び性は非常に良いのですが、充電器本来の性能である、充電性能が芳しくないようなのです。たとえば、jigブラウジング中、電池マークが一つ減ったからとこの充電器を接続、そのままjigブラウジングをし続け、1時間ほど経って充電器をはずしてみるとやっぱり電池マークは1つ減ったまま。しかもそのままjigっているとすぐに電池マークが1つになり電池切れ。この充電器をつないでいても充電されないばかりか、じわじわと本体電池が消耗していることになります。充電器をつながなければもっと早くに電池切れになっているでしょうから延命処置にはなっているんでしょうが、同じ状況でACアダプタにつなげば1~2時間ほどで充電ランプが消えますから(この時本体はヤバいくらい熱いですが)、この充電器は明らかに充電性能が劣っていることになります。
これに関連してもう一つ気になることがあります。一般的に「サードパーティの充電器を使うと、本体電池にダメージを与える」と言われています。実際、サードパーティの充電器の取説には「携帯電話本体を壊すかも」というような責任逃れなセリフが書かれています。さらに、「完全に電池が消耗した本体は充電できません」とも記載されています。このことから、この手の充電器は電池をしっかりと充電するには性能が足りていない、そしてそれが原因で携帯電話本体の電池にダメージを与えるおそれがあるのではないかと考えました。
想像しにくいですが、たとえば充電電流が少ないため、本来電池が期待している電流を流せない、そして電池にとっては微妙に電流が流れ続けることでダメージになる、と言うことなのかもしれません。
この充電器の性能はいかなるものか、そして今後も使い続けていって問題がないのかを検証したくなりました。
そもそも携帯電話を充電するのに必要な電力はどのくらい必要なのでしょうか?ドコモ純正のACアダプタを見てみます。ドコモではFOMAになってからACアダプタが全メーカ共通となり、機種変更しても充電器は使い回せるようになりました。つまり充電器に求められる性能はどのメーカの携帯電話でも同じということになります。
ACアダプタには、「OUTPUT DC5.4V 700mA」と記載されています。これは出力電圧は標準5.4V、出力可能な電流は最大700mAということになります。電気に弱い方の為に説明すると、電圧は水圧、電流は水流だと思ってください。そして、電圧は供給される側、電流は供給される側で決定されます。(定電圧源の場合)電圧はアダプタ側で決まりますから、間違って出力電圧12Vのアダプタを携帯電話に接続してしまうと過電圧で壊れてしまいますが、5.4Vで最大供給電流1200mAのアダプタを接続しても携帯電話側が必要としている電流しか流れ込まないので、携帯電話が壊れることはありません。
ACアダプタの内部はどうなっているかというと、家庭用コンセントのAC100VをDC5.4Vに変換する回路が内蔵されています。機能的にはAC(交流)をDC(直流)に変換し、電圧を下げて目的の電圧にします。電流は回路そのものの大きさ(容量)で変わってきます。(たくさんの電流を流せるようにしたかったら回路を大きくする必要がある)
単3を2本使う乾電池式の充電器は、元々電池2本でDC3Vしかありませんから携帯電話で必要な5Vには足りません。そこで「昇圧回路」で電圧を持ち上げます。その方法は、一般的に「チョッパ回路」を使って、DC3Vをブツ切りにしてそれをコイルとコンデンサに貯めて電圧を上げてから出力させます。いわば、ビルの屋上の貯水タンクの様な物です。しかしタンクの大きさには限りがありますから取り出せる電流(水流)はタンクの大きさとポンプの性能(つまり、回路)によります。乾電池式の充電器は小型ですから取り出せる電流というのも自ずと少なくなります。
充電器の性能を測るために電圧と電流をテスターで測定します。電圧や電流を測るためにはケーブルを切断しなくてはいけませんが、もったいないためこのような治具を用意しました。
FOMAのコネクタは部品として購入できませんので、どちらもガラクタの部品を流用しました。基板はN900iのものです。昔、道路に半分に折れた状態で捨ててあった物を拾いました。コネクタを基板からはがすのは面倒だったので、コネクタ根本のリードをカッターで切断してそこに直接ケーブルをはんだ付けしています。(基板側には電流は流れません)
測定対象は、
- ドコモ純正ACアダプタ
- サードパーティ単3電池充電器(ニッケル水素二次電池)
- サードパーティ単3電池充電器(オキシライド)
- ドコモ純正 FOMA乾電池アダプタ01(ニッケル水素二次電池使用)
- USB充電ケーブル(PCから給電)
測定対象データは、
- 開放電圧(何も接続しない状態の電圧)
- 充電電圧(携帯電話を充電している状態の電圧)
- 充電電流
開放電圧
ドコモ純正ACアダプタ
5.77V
仕様が5.4Vですから若干高めの電圧となっていますが、問題無いレベルでしょう。
サードパーティ単3電池充電器(ニッケル水素二次電池)
5.27V
問題無し
サードパーティ単3電池充電器(オキシライド)
5.29V
オキシライドはニッケル水素二次電池より電圧が高いため、出力電圧も上より若干高くなっています。
ドコモ純正 FOMA乾電池アダプタ01(ニッケル水素二次電池使用)
5.62V
ACアダプタと同等の出力電圧です。
USB充電ケーブル(PCから給電)
4.97V
USBポートですからほぼ正確な5Vです。5つの中で一番低電圧となります。
充電電圧・充電電流
ドコモ純正ACアダプタ
4.69V / 0.6A
電圧は開放の時より1V低下していますが、電流はアダプタの性能限界近くまで出力されています。これを基準とします。
サードパーティ単3電池充電器(ニッケル水素二次電池)
4.34V / 0.24A
電圧が低下してしまい電流がACアダプタの約1/3になってしまっています。満足に充電できないわけです。
サードパーティ単3電池充電器(オキシライド)
4.44V / 0.35A
ニッケル水素二次電池の時より電圧も高く、結果電流も多く流れています。この充電器を使う場合はニッケル水素二次電池は使わない方が良さそうです。
ドコモ純正 FOMA乾電池アダプタ01(ニッケル水素二次電池使用)
4.68V / 0.64A
ACアダプタに近い特性でさすが純正品と言ったところでしょうか。電池を4本使うということも有利に働いているのでしょうけど。
060609追記:0.6Aが流れるのは最初の20~30秒で、そのあと0.4Aの定電流充電になります。完全に電池切れした携帯電話でも充電できるように、最初の数十秒だけACアダプタと同等の電流を出力して、その後は定格通り0.4Aに落ち着くことがわかりました。
USB充電ケーブル(PCから給電)
4.39V / 0.33A
USBポート自体は最大500mAしか流す能力はありませんから、このくらいが実力でしょう。緊急時であれば使えるというレベルです。
オシロスコープで波形を観測してみました。縦軸は100mV/divでDCカット波形です。
ドコモ純正ACアダプタ
ギザギザはおそらくACの周波数だと思いますが、レベルは100mV p-pでそれほど問題ないレベルです。
サードパーティ単3電池充電器(ニッケル水素二次電池)
派手なチョッパノイズです。オシロの性能上はっきりとは見えませんが、スパイク状のノイズが数100mV p-pのっていて、携帯電話にとってはきれいな波形とは言い難いと思います。(携帯電話側にもノイズ除去回路が実装されていると思いますが)
ドコモ純正 FOMA乾電池アダプタ01(ニッケル水素二次電池使用)
見事な直流波形です。もう一度言いますが、さすが純正品です。
USB充電ケーブル(PCから給電)
訳のわからないPCからの電導ノイズがのっていますが、概ね予想はしていました。
結論
まず、懸念していたサードパーティ製の充電器では、予想通り充電電流が不足しており満足な充電性能ではないことがわかりました。少なくとも電圧が高いアルカリ・オキシライドなどの一次電池を使う必要があります。 逆に純正の「FOMA乾電池アダプタ01」は、まさに純正。電圧・電流・波形ともに文句の付け所がありません。電池が消耗してくると充電電流も下がっていくのでしょうが、電池4本、重いだけのことはあります。ドコモが電池2本の充電器を出してこない理由もわかった気がします。
これらの結果から、本体電池へのダメージの度合いまでは判断できませんが、やはり純正の充電器はそれなりにしっかり設計されていることがこの実験からわかりました。
ちなみに、「FOMA乾電池アダプタ01」の内部回路はどうなっているのかと思い、買ったばかりの自分の物を開けるのは忍びなかったのでネットで探してみたところ、ありました。大きめのコンデンサが入っているそうで、なるほどあの波形も納得できます。また、半固定ボリュームが2つ実装されており、1台1台調整されて出荷されていることもわかります。高いだけのことはありますね。
乾電池アダプタ、到着 by marsaさん
http://knzmobile.seesaa.net/article/15227499.html